2019/2/17 わたしはどこにもいない

f:id:Ikirkashinu:20221105152145j:imageわたしはいまどこにいて、一体何をしているのかわからなくなるときがある。
それは突然やってくるときと、そうなりやすい環境にあるときに起こる。


水中にいるときのように、視界がぼんやり揺れて滲んでくる。
あるいはコンタクトレンズをつけているはずなのに、裸眼のように全てが二重に見えてくる。
人の顔が、水彩絵の具のように混ざってはっきり認識できなくなる。
音と声が、じりじりと萎みながらわたしから離れていく。
自分の体の輪郭が少しずつ砕け空中に分解し、溶け込んでいくような錯覚を覚える。
そこから自分の意識が体から離れていきそうな感覚に陥る。


集団の中にいるとき、何度もこんな感覚に陥っていきそうになる。聞こえてくることばたちはほとんどわたしに馴染まず、体にぶつかっては地面に転がる。地面に転がったことばたちは、冷えきって枯れて死んでいく。その様を感じとり、ひどくかなしくなってくる。わたしは、罪のないことばたちを、殺している。逃げだしたくなる。泣き出したくなる。あるいは誰にも気づかれることなく、気を遣わせることなく、このまま消えてしまいたいとも思う。みんなの記憶から、わたしの存在を消しゴムで消せたらどんなにいいだろうとも考える。


ずっとその繰り返しだ。繰り返しているうちに、わたしは、いろんな大切なものを自ら手放してきてしまったのかもしれない。

 

馴染まないのではなく、わたしが受け取ろうとしないからかもしれない。自らの意志で、拒否しているのかもしれない。でも、どうやったって受け取れない。だって、どのことばも、輪郭がない。色もない。掴もうと試みたとして、みんなわたしの指をすり抜けていく。かたちも色も曖昧な透明なものたちを、受けとる術をわたしはずっと知らない。どこに行けば、誰に尋ねれば、その術は身に付けられる?わたしは、こころからその術を探しだし、身に付けたいと思っている?


手話ができて、ことばがはっきりと見えるようになっても、その感覚は時折訪れる。わたしは多分、興味がない。ひとりになりたい。邪魔になるだけで、わたしがここにいる必要性はどこにもない。ここにいたいとも思わない。意志をまとう指たちは、わたしにはあまりにも眩い。もう戻れない。わたしには何もない。


ずっとさみしいしずっとせつないしずっとむなしい。それはきっと死ぬまで変わらない。わからないけど、そんな気がしている。わたしは、そんな透明な感情たちを、愛してる。